第三章 依頼人

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 実際にそれが自信ありげに映ったのだろう。  微かに口許を緩めた少女が、小さくうなずいた。 「分かりました。入って下さい」  しかし、この少女の表情に笑みは見えない。  どこか思い詰めたような緊張感が、彼女の全身を覆っているように映る。  何か余程の事情を抱えているのだろうが、エルドレッドにはそれ以上の思案が浮かんで来ない。  考えるのをやめた彼は、少女の勧めるままに部屋に入った。  少女より先に敷居を跨いだエルドレッドは、思わず声を上げた。 「あれ?」  エルドレッドに見覚えのある顔が二つ、先に来ていた。  ベッドの縁で片膝を抱えた美女が、大きな菫の瞳に好意的な笑みを浮かべ、エルドレッドを見つめている。 「また遇ったわね、ぼうや」  続けて掛けられたのは、低い男の声。 「来やがったな、小僧。ま、冒険者なら当然だな」  その声の主は筋肉質の男だった。  彼はローテーブルに置かれた蝋燭と睨み合う形で、床にあぐらをかいている。  間違いない。  彼らはエルドレッドが“伝言板”の前で出くわした、あの二人組だ。  しかし純朴なエルドレッドは、もう酒場での出来事も半分忘れている。  男の方もとうに酔いは醒めているらしく、小さな灯りに照らされた顔に先刻のような棘はない。     
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