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「分かってる。それも俺の心がけ次第だって、言いたいんだよね? シオン」
そう言って、エルドレッドが清明な笑いを洩らしたときだった。
不意にシオンが立ち止まった。
「どうしたんだ?」
エルドレッドも半歩遅れて立ち止まると、シオンが鋭く警句を放った。
「動くな」
「えっ?」
エルドレッドが口走るのと同時に、街道脇の麦の穂がかさかさと鳴った。
シオンが音もなく、エルドレッドと背中を合わせて屹立する。
と、ほとんど同時に、二人の前後に三つの人影が跳び出してきた。
エルドレッドの前に一人、シオンの前に二人。
腰を低く落して身構えた男が立っている。
いずれも薄汚れた粗末な身なりに口許を布で覆い、鈍く光る匕首(あいくち)を手にしている。
この三人の男は、鍔のない片刃の短剣をちらつかせつつ、エルドレッドとシオンをじっと見据えている。
覆面のせいで、彼らの顔つきははっきりとは分からない。
だが、覆面から出ている疲れ切った目許や、まばらに髪に混じる白いものから察するに、決して若い、とはいえないようだ。
また彼らが握る匕首も、どれもかなり使い込まれている。
武器というよりは、日常の道具や農具の一つとして使われていたのだろう。
「何なんだ?」
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