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エルドレッドは特に驚くこともなく、短く聞いた。
頭の中でこの後の展開を予想しつつ、彼は目の前の覆面の男をじっと見つめる。
この覆面の男もエルドレッドを見返しながら、黒い布の下で簡潔に口を開いた。
「分かるだろ。金を出しな」
訛りはあるが、きちんとしたこの大陸の共通語だ。
予想どおり過ぎる展開に、エルドレッドは小さくため息をついた。
……ああ、やっぱりこうなった。
彼が流浪の生活に身を投じて、何年かは過ぎている。
いわゆる追い剥ぎや野盗に出くわすのも、これが初めてではない。
うんざりしつつも、エルドレッドは感情の起伏を抑え、正直に懐具合を語る。
「俺、金なんか持ってないよ。まだ駆け出しの“冒険者”なんだから、大して依頼を片付けてるワケじゃないんだ。他を当たった方がいいよ」
だが、この男は聞く耳を持たず、エルドレッドに食い下がってくる。
「それでも『冒険者』だったら、その辺の村人よりゃあ、よっぽど手持ちがあるだろが」
おもむろに左手を差し出しながら、男が苛立った口調で言う。
「出すものさえ出しゃあ、何もしやしねえよ。オレたちだって、手荒なマネはしたくはねえんだ。なあ、分かるだろ?」
男は、武装した旅姿のエルドレッドをじろじろと眺め回す。
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