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第三章 依頼人
一
戸口に佇む、一人の少女。
この少女が、貼り紙の主の“依頼人”だろう。
年の頃は、エルドレッドと同じ十六、七といったところだろうか。
栗色の長い髪を二本のおさげに編みこみ、控えめな胸元に垂らしている。
愛らしい顔立ちではあるものの、華やかさは全くない。
彼を見つめるその暗緑色の瞳は深く沈み、どこか翳が潜む。
堅く結ばれた可憐な口元や、エルドレッドを直視する眼差しの真摯さが、少女の生来の儚さを不器用に覆い隠している。
いかにも困苦の果てにこの宿屋にたどり着いた、そんな風体の少女を前にして、エルドレッドは彼女の最初の問いにも答えられない。
訝しげに眉根を寄せた少女が、エルドレッドが腰に下げた剣を見つめつつ、もう一度問いかけてきた。
「戦士の方ですね? 腕に自信は?」
どこか挑戦的に響いた少女の質問に、エルドレッドはハッと我に還った。
「ああ、あるよ」
短く堂々と答え、深くうなずきはしたものの、大きく出たことに少々の後ろめたさを覚えた彼だった。
しかしエルドレッドも、剣を吊った戦士だ。
そんな思いは素振りにも出さず、エルドレッドは太い腕を組んで見せる。
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