それは彼女にとっては、呼吸をするように自然な事

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「家族に左利きの人でも居るの? 左側に座るとその人と腕がぶつかるから、右側に座る癖がついたとか」 「左利きじゃ無いけど、妹は左耳が聞こえなくてね。話をする時は、右側にいる癖がついたのよ。よくよく考えてみると、並んで食べる時や歩く時もそうだわ」 「左耳が? 生まれつき?」  意外な話に千尋が問いを重ねると、唯は頷いて話を続けた。 「妹は零歳児の時に麻疹にかかったんだけど、その後遺症らしいわ。まだ言葉を喋る前だったから、右耳には異常がなくて幸運だったみたい。何だか反応が鈍いと親が気が付いたのは一歳過ぎてからで、そこで精密検査をして左耳が全く聞こえないのが分かったのよ」 「それは知らなかったわ。唯ったらそんな事、今まで言ったことは無かったし」  千尋は驚きながら告げたが、唯は意外にあっさりとしたものだった。 「別に、取り立てて言うほどの事でも無いもの。本人も、それほど不自由はしていないと思うわよ? あ、ただ、教室で机は左側にして欲しいと頼むと大抵窓側になって、夏は暑いと文句を言ってたけど。それから試験の時のリスニングは、座る場所によって影響があるかもしれないわね。でもそれは、どうしようもないし」 「なるほど。そういう事も考えないといけないのか」     
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