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第一章
「また幼児言葉使って、いつまで甘えてんね!」
これが幼い頃の彼に対する母の口癖で、普通に喋るまで聞き入れてもらえなかった。
彼がものごころ付く頃にはその裏返しのように母に対して実に我が儘に振る舞った。その振幅が一番エスカレートしたのは母が一番困る食べ物への好き嫌いだった。
両親は豆ご飯が好きでよく食卓に出た。
「ごめんなお父ちゃん好きやさかい豆だけだしとき」
母にそう言われても。
「今日はめし喰わへん」と箸を投げ出した。
ただ豆の食感が気に入らんだけだった。サツマイモの食感は良いがジャガイモは苦手で、豆はその上をいくからだ。こんな具合に野村慎二(しんじ)は中学の初めまで親を困らす内弁慶だった。親も無干渉だから勉強もしない。そ もそも何の見返りもなく、考え方を強制される学校そのものがイヤだった。だから両親の為と云うよりも行動が直接生活に結び付く社会へ早く出たかった。
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