第一章

2/7
前へ
/122ページ
次へ
 この頃に彼は気付いたのだ。両親、特に常に身近に居る母が怒っても絶対手を出さない我慢強さに。そして「お母ちゃんの言う事は間違ってるか」と常に言葉でお前のすることは理に叶ってないと解く姿に感化された。だが幼少の頃に十分な愛情を受けられなかった事は渇望したままだった。  社会に出てまだひと月しか経ってないのに慎二はすっかり落ち込んでしまった。人と合わすのが苦手なんだ。誰だってそうじゃないかと云われればそうだが、他の者は適当に腹芸をする。両親からとやかく言われた事のない慎二は、イヤだと思えばそれが直ぐに顔に出てしまう。だから相手からは良く思われないし、付き合いづらい部類に選別されてしまった。それでも一般企業に入社したのは何も言わない両親を安心させたい一心だった。     高卒の彼は事務系統でなく作業場へ配属された。比較的若者の多い部署だったのがせめてもの安らぎだった。高卒社会人一年生の彼の周辺にはべテランの年配者ばかりだった。それでもささやかな配慮か、彼の部署は若者が多かった。それでも彼の配属先では十代は一割にも満たなかった。     
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加