第二章

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第二章

初出勤日は言われた時間より早めに行ったが、十人ばかりがすでに作業の準備に取りかかっていた。大半は住み込みの従業員だと後で知った。  まずドアを開けるなり足膝を組んで踏み台代わりの椅子に座って腕組みする女が目に飛び込んで来た。態度とは裏腹に「おはよう」と親しみのこもった口調に驚かされた。これで初出勤の緊張感は一変に溶解してしまった。 「あのー今日初めてなんですが・・・」  とりあえず担当者じゃないと思ったが声を掛けた。 「あらそう」  女は彼をじっくりと見定めてから親しみを込めて訊いてきた。 「いくつ?」 「十九」 「なーんだまだ子供ね」  此の言葉は馬鹿にされたように頭に来たが愛想笑いをしてしまった。そこへキミちゃーんと通し廊下の奥から呼ばれて彼女は、はーいと去っていった。ポツンと残されて心細くなったまま立ち尽くすと二人が戻って来た。あの人に訊けば良いかと傍へ寄った。彼は両手に鉄鉢と呼ばれる染料の入った白い鉄の平底のお椀を持って来た。彼女も同じように続きながら深山(みやま)に彼の処遇を尋ねた。 「深山さんあの人今日初めてなの」 「先生から聞いた野村くんか?」     
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