第三章

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第三章

  経営者の山村が住む路地の突き当たりの家を本宅と呼んでいた。この家には山村と次女が居る。家事は近所で通いで来るおばさんに任せていた。此の本宅には他に八人の住み込みの女性がいた。 本宅の向かいに有る家の一階表側を事務所として使ってる。その奥と二階が男性用の寮になっていた。野村が入って五人になった。  一階の奥は独立した一部屋として野村より一つ年下の白井義則(よしのり)が使っていた。彼は暇さえ有ればギターを弾いていた。事務所と白井との間だには通路を挟んで片側が庭でもう一方が階段とトイレそれと湯が止めてある風呂場があった。二階は真ん中の階段を挟んで二つの広い部屋があり、それぞれ襖で分けてあった。彼の部屋は二部屋続きなので入り口側には通路としてカーテンが架かっていた。奥の部屋の睦夫(むつお)さんは四つ年上だが気さくな人物で何かするにも率先して遣ってくれる。深山陽介も事務所の二階に住んでいる。その手前の部屋には黒川がいる。彼だけはどことなく絵描きらしくなかった。 本宅の玄関近くの応接間と居間、台所に繋がる場所が自由に出入りできた。応接間でレコードを聴いたり、居間でテレビを見たりと自然と寮の男女の憩いの場にもなっていた。  本宅の有る路地の六軒向こうに工場があった。工場には通いと住み込み合わせて二十人ばかりの友禅の職人がいた。大半が二十代で六割が女性だった。  普段は黙々と白生地の反物に絵を描く仕事だから聾唖者かと思うほど静かな職場だった。それが昼休みになると一斉にセミが鳴り出したように賑わうから最初は戸惑った。それと同時にそれぞれの個性が解った。女性を顔で順位付けしていたが、此の時に順位がだいぶ入れ替わった。だが希美子が一番人当たりが良くて気に入った。彼女の他にも数人ぐらい顔立ちの良い子が居たが喋り出すと品位が落ちた。気になるのは希美子さんが付き合ってる深山さんだ。だが上司だから色々と相談は出来る。その都に度傍に居る希美子さんにも気軽に接しられた。その反動で陽子には適当に接した。それでも陽子は小言を言わず笑って観てくれる。野村にすれば心穏やかではないが直ぐに希美子の顔を見れば吹っ飛んでしまう。     
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