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それからたった一週間後、勇者が死んだという知らせが入った。
それでも、一年に選ばれる勇者は一人だけ。新しい勇者が選ばれたりはしない。親友の両親も、仲が良かった奴らも、もちろん俺ら家族も皆悲しんだ。
「まさか死んじゃうなんてね……」
母親が言ってため息をつく。
「ほんとだよな。この俺を差し置いて選ばれておいて………死ぬなんて」
俺も同調する。
村の教会の鐘が鳴り響いた。よくある、「広場に集合」の合図だ。人工の少ないこの村では容易く集合できる。
広場に行くと天使がいて、その前に若者達が並ばされていた。それはさながら、勇者が選ばれる時の様子だった。
「えっ……」
既に並ぶ若者達は俺を見つけるなり手招きした。俺は駆け寄って事情を聞いた。
「どうやら異例の事態らしくてな。もうひとり勇者が選ばれるらしいんだよ!今度こそお前だろうな!ほら並べ!」
隣の家に住むお兄さんが俺に教えてくれた。俺はその隣に並んだ。
勇者がもうひとり選ばれる。今度こそ俺だ。
でも、あの時のような覚悟は出来なかった。
「選ばれたのは……
アナタです!」
天使が意気揚々と告げたその名は俺のものでは無かった。
選ばれたそいつは顔を輝かせて、光栄です!と叫んだ。その他の若者達は互いに言葉を交わしていた。
「どうして俺じゃないんだ」
俺は天使に訊いた。天使は優しく笑って俺の耳元で囁いた。
「君の為なの」
「っ!おい、それどういうい……」
「じゃあね、村の皆さん!勇者は明日の朝、出発してくださいね?」
集会は解散になり、俺も家に戻った。
「俺のため………?」
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