世界を変えたのは

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世界を変えたのは

そんな日、国家集会の合図が鳴った。 首都には国民全員の入る広場がある。 「今日は、不忠を働いた天使を処罰しまーす!」 あの天使を連れた魔王が出てくる。 国民が拍手して沸いているその合間に、俺は魔王や家臣の立つ舞台の方へ走っていった。 舞台の脇に立つ下級兵士の肩を叩く。下級兵士は俺にだけにわかるよう頷いて、静かに歩き始めた。俺は別の下級兵士の肩を叩く。そいつも頷く。 二人の下級兵士は舞台裏へ入って、少ししてから俺も招き入れた。俺の姿を見るなり、舞台裏にいた下級、中級兵士たちが立ち上がる。俺は彼らの顔を見渡してから頷く。兵士たちは舞台に上がっていった。 舞台上に元々いた上級兵士たちはそれを見て小さく頷いた。 「この子はね、村に行って私の選んだ人を連れてこなきゃいけなかったの。なのに、違う人ばかり連れてきたの!私が選んだ人を連れてくるまで何度も遣わしたわ!それでもこいつは、私に逆らい続けた!」 魔王の話も終盤に入った。上級兵士たちは舞台袖の俺の合図で魔王に飛びかかった。 「なにするの?!」 天使の手首を繋いでいた枷は魔王の手に付けられた。 「みんな聞いて!」 天使の暴露が始まった。 兵士たちは既に、俺と天使によって真実を知らされていたのだ。その上で協力してくれた。 「だから!この魔王はみんなに嘘をついていたの!」 憤った天使たちや国民の声を聞いた兵士達は、天使が入るはずだった地下牢に魔王を閉じ込めた。 あの天使は新しい王の座についた。俺は側近にならないかと提案されたが断った。もう誰も生贄にならない。 新しい王は旧魔王から与えられた魔力を使って人助けをする。 悪者は倒されたのだった。 このことが後世に語り継がれるとしたら、俺の存在も書き記されるだろう。でも、俺は魔王には何もしていない。悪者を倒したのは俺じゃない。 だけど一つだけ断言できる。 この国を変えたのは、きっと俺だ。
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