ただいま

1/3
前へ
/3ページ
次へ

ただいま

『作用、反作用か懐かしいな』 どこかの学習塾の広告を目にした智子(ともこ)は夕方のラッシュアワーの中にいた。 人並みに勉強をし、大学を卒業して、氷河期の中、なんとか就職もできた。 恋愛に興味がなかったわけでもなく、それなりに飲み会にも出掛けていったこともあった。 転職も経験し、大きなヘマをやらかすこともなく仕事もこなしている。 自分一人だけを見つめると幸せでも不幸せでもなかったが、気づけば彼氏もなく独身アラフォー女性というジャンルを名乗るようになっていた。 会社では育児休暇の受け継ぎが、このところ増えてきた。 「少子化対策にしっかり貢献してるわね」 出産を控えた後輩が主役の会で、少し大人ぶった言葉を使うようにもなった。 幸せでも不幸せでもない、それが今の智子のぼんやりとした不安であり、結婚もせず、子どもも産まず、彼氏すら持たず、気づけば人並みから距離を持ってしまった自分が社会(ここ)に居て良いのだろうかと感じずにはいられない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加