<第二話>

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 だろうな、とフレイアは思う。魔王が勇者に討伐されてハッピーエンド、はもはやこの世界の常識と言っても過言ではない。魔王のジョブを持ってるだけの無害な人間が存在することこそ一応知っていても、実際に事件を起こした魔王なら話は別。起訴されればほぼ100%有罪になるのが確定しているようなものだ。世界征服を企んで、勇者に捕まって、無罪になった魔王など誰も聞いたことがないのである。  そんな事件で魔王の弁護をするということはつまり、最初から確定した負け戦を掴まされるようなものだ。一体誰が好き好んで弁護を引き受けたいと思うだろうか。  弁護士というものは、ある程度勝てる見込みがある勝負しか引き受けないものである。魔王が罪を認めている状況で、情状酌量の余地ありとして減刑を求めるならともかく――今回などは、記事の通りなら魔王トリアスは自らの罪を否認している状況。勝ち目は薄いと言わざるをえない。 「それでも、この世界の憲法は、全ての人が裁判を受け、そして弁護を受ける権利を保証しています。誰も引き受けなくても、国選弁護士はつくことでしょう」 「国選弁護士ねえ。……やる気を出してくれるとは思えねーけどな。だってアレで依頼された仕事って報酬やっすいじゃねーか。しかも今回は負けるのがわかってる裁判だろー」 「まあ、そうでしょうね」  でも、とテクノは顔を上げた。 「フレイア、貴方はこの仕事、引き受ける気なんですよね?魔王トリアスこそ……長年貴方が探し続けていた人だったから」  本当は止めたいんだろうな、とフレイアは思う。国家権力もなんのその、自分のやりたいように暴走してばかりの弁護士であるフレイアに、何だかんだで三年もついてきてくれているのが彼だ。事務所が出来る前から、親元を離れてボロボロのアパートで自分を支えてくれた恩人が彼である。  自分も弁護士資格を取りたいから、勉強のためにパラリーガルやってるだけですよ、なんてテクノは言うが。本当のところがどうなのかはフレイアもよく知っている。彼は自分が心配なのだ。そして本当は自分が弁護士になるよりも――フレイアのためを思って、共に戦うためにそこにいてくれているのである。  フレイアが、一番に望んでいることが何なのかを、彼は誰より知っているのだから。
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