<第二話>

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「……魔王ってジョブに、罪なんかないだろ」  事情はおおよそ、テクノにも話してある。だからこそ止めたいと思いつつも、彼はフレイアが新聞を見るよりも先に情報を教えてくれたのだから。  本来彼の立場なら、止めるのは当然だ。被告人が犯行を否定している以上、フレイアが必ず情状酌量ではなく無罪を狙っていくのは目に見えているのである。それが世論や、下手をすれば政府そのものを敵に回しかねないような暴挙であったとしても、だ。弁護をしたからといってそれそのものが犯罪になるはずもないが。少なくとも敗北の汚点は残るし、何より下手をしなくても業界で干されるのは目に見えている。今後の弁護士人生を考えるなら避けて通るべき障害だろう。  わかっている。それでも、フレイアは。 「それなのに、魔王ジョブの保有者が捕まったってだけで、みんな当たり前のように思うんだ。“ほれ見ろ、また馬鹿な魔王が世界征服をなんて馬鹿で傍迷惑なことを企てたんだぞ”って。指差して笑うんだよ。……容疑者の段階じゃ、まだ犯人と決まったわけでもないのにな。捕まって新聞に顔と名前が出た時点で、みんな当たり前のように有罪だと決めつけてるんだ」 「……フレイア」 「それがさ。差別じゃなくて、何だってんだ。誰だって生まれ持ったジョブは変えられないってのによ」  ほれ、とフレイヤが手を伸ばすと。少し躊躇ってから、テクノは資料を渡してきた。それを丁寧にファイルに挟むと、フレイヤはすくっと立ち上がる。 「俺は世界を変えたいんだ。……そういう意味じゃ、俺がやろうとしてることも世界征服ってやつなのかもな」  フレイヤは、弁護士になる時に誓ったのである。  自分は、誰かを救うための弁護士になろう、と。特に冤罪で、苦しんでいるはずの人達を助けるために。
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