<第三話>

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「……会います、その人に。なんて名前の方ですか?」  本音は話すのも嫌なのだろう警官は、嫌々といった様子で口を開いた。 「フレイア=ブロッサムだ。お前も名前くらい聞いたことはあるんじゃないか?」  ロータス連邦所属の、正義の反逆者――フレイ。知っているも何も、有名人ではないか。必ずしもそれは良い意味だけではないけれども。実際会ったことなどないが、トリアスも知っている。活字が好きだったトリアスは、幼少期から非常に本と新聞を読む子供だったのだ。  正義、とつくのに反逆者なんて彼が呼ばれるのには理由がある。フレイアは刑事事件――というか、自分が気に入った事件でないと依頼を受けないことで有名なのだ。金目当てで弁護士をやっている、わけではないのはわかる。莫大な報酬が手に入りそうな訴訟問題系の大半を蹴っているわけなのだから。彼が手を出すのは大きな刑事事件が多い。弁護士になってまだ数年のはずなのに、彼が関わった事件はマスコミに大きく取り上げられることが多いのだ。  何故なら。絶対有罪と言われるような事件を、次々ひっくり返しては被告の冤罪を晴らしていくのだから。  当然検察には嫌われているし、真実を暴くためなら突っ込まなくてもいい首も突っ込み、人が知られたくない秘密も容赦なく白日のもとに晒すので一部の政治家や権力者にも嫌われている。一般人の間でも、彼を正義の味方と呼ぶ人間と、偽善者と罵る人間で評価が真っ二つになっていたはずだ。  そんな彼が――自分の事件に首を突っ込んでくる、とは。確かに、久しぶりに出た“魔王の世界征服”事件である。彼からすると非常に魅力的なエサなのかもしれないが。 ――まあ、いいさ。いくら彼が弁護してくれたって、結果は同じなんだから。  藁にも縋る想い、なわけではない。縋ったところで藁ではなんの救いにもならないことくらい、トリアスは嫌というほど知っているのだから。  それでも会うことを決めたのは。最期まで、自分の誇りを貫いて戦って死ぬため以外の何物でもないのである。 「よお、あんたがトリアスだな?」  そして、トリアスは面会の場で出会うことになるのである。  燃えるような赤い髪をした、非常に強烈な――一人の弁護士に。
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