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一番大切な人
「おじいちゃん!おじいちゃん……!」
耳の奥で、孫達の悲痛な泣き声が聞こえて、
あぁ、僕にもいよいよ迎えが来たのだ、と思った。
――――夢を、見ていた。
あのひまわり畑での、あの日の夢を。
ぎゅ……と、
左手に弱々しくもしっかりと僕の手を握る感触がする。
千草。
やっぱり、僕の一番大切な人は、
今も昔も君だった。
君は、幸せだっただろうか。
僕に生涯を捧げたこと、後悔していないだろうか。
僅かに残った力を振り絞って、親指でその手を擦る。
しわしわの、骨ばった手の甲が触れる。
お互い、歳取ったな……
なぁ、
あの時話していたことを、ちぃは覚えているか?
てっちゃんが言い出した、妙な夢の話。
僕は半分呆れて信じていなかったけど、
ちぃは、案外本当かも……なんて言っていたな。
『人って、死ぬときに、
一番大切な人に何か一つだけ恩返しが出来るらしいぜ』
5年前に先立った幼馴染みの徹也は、
誰かに何かを返すことができたのだろうか。
僕にずっと離れず連れ添ってくれた君に、
何か一つだけ返せるのだとしたら、
僕は………………
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