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「…そうだね、痛いし、寒い、苦しい。どうして僕はこんな目にあってるのかな、何もしてないのに」
「そうだろう。なら俺に望め」
苦しい生にしがみつくくらいならいっそ道連れに全員地に落としてやろうと思わんのか。楽になれるぞ。
そう言えば男は俯き、顔に影を落とした。
もう少し、あと一押しでこの男は此方側にくるだろう。
さあ来い、堕ちてしまえ。
人間の心など脆いものだ。
男は顔を上げて、俺を見る。
「でも困ったもんでね」
男は笑っていた。
泣きながら笑っていた。
「それでも僕は生きていたいんだ」
俺はその顔を見た瞬間に、自分の中の何かが強くこの男に惹き込まれていくのを感じた。
「何を言われても、どんなに見下されても、ゴミみたいにされたって、僕だけは自分を愛してるんだって、生きてて幸せだってそう思いたいんだ」
「…わけがわからんな」
そっか、とぐしゃぐしゃになったとても見れたものではないような笑顔で男は言った。
「ヴァル、人はね、自分を大切に出来なくなったらきっと心が無くなる。言いなりになるだけのがらくたになってしまうのさ」
「…」
「いや人だけじゃない、君だってきっとそうさ」
「…馬鹿な男だな」
いや、馬鹿なのは俺もだ。
たった一人の男の言葉に気圧されてしまった。
恐らく、ずっと、俺はこの笑顔に惹かれていたのだ。
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