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「…長く居過ぎた、情が移ったな」
俺は背中の翼を大きく広げた。
小屋の隙間からうっすらと注がれる日の光を遮るほど、大きく。
「…行ってしまうのかい」
「ああ」
「寂しくなるな」
「最後の問になる、本当に何も望まぬか」
俺の言葉に男はぼろきれのような服の袖で涙を拭い頷いた。
「もし望むなら、君とずっと友達でいたいな」
「それは叶えられぬ願いだ」
「ふふ、そう言うとわかってたさ」
それじゃあ、と口を開こうとした男に手を伸ばし、俺は足枷から繋がれた鎖を引きちぎった。
男は目を大きく見開いて間抜け面になった。
「お前は阿呆だ。どんな辛い生を与えられても、どんなに俺が甘言を囁いても、他人を落とすことをしなかった。お前を傷つける者達はお前がそんな優しさを掛けてやる価値もないほどの畜生共だというのに。本当に、阿呆で、どうしようもない」
「…ヴァル…?」
「そんな阿呆なお前が、愛しい」
「え」
「友にはなれぬ。……俺のものとなれ」
この男の信ずる神が、天上から見ているのならば宣告してやろう。
貴様がこの男を幸福の道へと拾わぬのならば、俺が奪い取ってやる。
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