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「ああ、いてくれた」
昨日のが夢だったらどうしようかと思ったよ、そう笑いながら男は薄汚れた袋を片手に俺の傍へ寄る。
「大したもの貰えなかったんだけど…」
袋から何かを取り出したかと思えば、差し出されたのはカビの生えたパンだった。
俺は顔を背けて舌打ちをする。
「いらん」
「ご、ごめんね。やっぱりこれは食べたくないかな。味は問題ないんだけど」
眉を下げて申し訳なさそうな顔をする男に更に苛々した。
「悪魔はそんなものは食わん」
牙を剥き出して男を威嚇すると、男は豆鉄砲を食らったような顔で俺を見つめた。
「…君たちは何を食べるんだい?」
「そんなものは周知の事実だろうが、我ら魔の者は貴様らの畏怖の対象ぞ」
ここまで言ってようやく理解をしたのか男は恐る恐る訊ねた。
「人間?」
「そんなことも知らずに俺に寄ってきたのか阿呆」
「そうか、そうだね、はは…。僕は学が無くって…でも君のおかげでひとつ賢くなったよ」
男はカビの生えたパンを袋に仕舞い直して俺の前で胡坐をかいた。
「困ったな、手足が無くなると働けなくなってしまう」
「何を勘違いしている。悪魔が食うのは肉ではない、魂だ」
確かに血肉を好んで食らう奴らもいるがそんなもの低級の悪魔か魔獣が精々だ。
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