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この男、自ら言う様に本当に学がないらしい。
そこで俺はあることを思いつき男に笑いかけた。
「お前の魂を俺に寄越せば願いを叶えてやろう、その代わり死後は地獄に落ちるが」
質が下等なのは確かだろうがそれでもこの折れた翼を回復させるほどの精力はつくだろう。
自然な回復を待つよりよほど手っ取り早い。
悪魔の翼は魔力の源なのだ、これさえ治ってしまえばどうとでもなる。
「金か、女か。それとも飼い主を殺してやってもいいぞ、自由になれる」
自由。奴隷には最も欲しいであろうものをちらつかせて男の反応を見る。
人間は愚かな生き物だ。
少しばかり蜜を与えてやれば次から次へと欲を噴き出させ蜜を欲しがる。
俺はそんな人間の姿を腐るほど見てきた、この男とて同じように堕としてやろう。
「願い…」
男は胡座をかいたまま考え込む。
さあ、言えばいい。
口元を歪ませて返答を待ったが、返ってきたものは俺の想像とはかけ離れた願いだった。
「なら君の名前を教えてほしい」
「…」
「駄目かい?」
眉を潜めて睨む俺に、男は気まずそうに肩を竦めた。
「…そんなものが願いに入るか、別のものにしろ」
悪魔と言えども相応の対価というものは必要なのだ。
名を告げる程度の願いの大きさだけで魂の契約は出来ない。
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