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「それ以外はないな」
白々しい。
俺が悪魔と知って偽善を貫き通すか。
何百年と生きる間何人かこういった人間を見たことがある。
虚勢を張って善人のふりを貫き通す間抜けだ。
だがそういった人間こそ堕ちる時は深くまで堕ちる。
もっと深くこの男の心に入り込めばその偽善も揺らぐだろう。
「…もういい、その気になったら言え」
「名前は?」
「教えるか阿呆」
冷たく突き放せば残念だ、と肩を落としながら男は帰っていった。
何なんだ、あの阿呆は。
次の日も男はやって来た。
「また来たのか」
「他には誰も来ないよ、ここの森はいったらなんだが鬱蒼としてお日様の光も入らなくて気味悪いから。入るのは僕くらいのものさ」
「そんな気味の悪い森に薪集めをしてこいと使われているんだな、お前の魂を寄越すなら飼い主を殺してやるぞ」
「大丈夫」
男はただ笑うだけだった。
また次の日も男はやってきた。
「いつから奴隷なんだ」
「思い出せない、ずっと子供の頃から」
「辛いと思わんのか」
「辛いよ」
「なら」
「でも生きてたらきっといい事あるよねえ」
そう言って男は笑う。
何も願わない。
また男はやってくる。
「君のことをヴァルと呼ぶことにするよ」
「は?」
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