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だが男は嘆くでもなく憤慨するでもなく…ただ困ったように笑った。
「仕方ないよ…だって僕は人間だから。嫌なことがあれば怒る、酷いことをされれば悲しい、幸せな人に嫉妬だってするさ」
「何がおかしい、何故笑う。何だその顔は、苦しいのなら他人を呪えばいいだろう」
男のその笑顔に無性に腹が立った俺は男に問い詰めた。
そんな想いをしてまで生きたいと思うほどの人生とは思えない。
「ヴァル、君の言う通り僕は奴隷だ。でもね、よく見て、僕は彼らと同じ人間なんだ。だから人間でいたいのさ」
「…」
「人を呪えば僕はきっと人間ですらなくなってしまう」
それだけは嫌なんだ、と男ははっきりと俺に言った。
「僕も彼らも神様が作られた命だから、傷つけあったら神様が悲しむよ」
「お前は救いを差し伸べてくれぬ神が好きか」
「人間はこの世に沢山いるから神様はお忙しくて僕よりも大変な人を先に助けていらっしゃるのかもしれないね…それにねヴァル、僕の願いは既にひとつ聞き届えてもらえたんだよ」
「何がだ、飯でもたらふく食えたのか」
男は首を振って少し照れくさそうに頬を赤らめ、俺を見た。
「ずっと友達が欲しかったんだ。そうしたら君に会えた」
俺は目を瞬かせて毒気が抜かれたように深く溜息をついた。
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