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戦闘開始
キャロル・アシェム大尉は操縦桿を傾け、攻撃ヘリの機体を敵戦車に向けた。ヘルメットのディスプレイで射撃権が移っていることを確認し、ミサイル発射ボタンを押した。カチリというボタンの感触が指先から腕を伝って脊髄にまで上っていった。
AGM-114ミサイルが白煙を吐きながら飛んでいく。キャロルはパキスタン軍のアル・ザラール戦車が粉々に吹き飛ぶことに何の疑いも持っていなかった。AGM-114はヘルファイアの愛称を持つ。ヘルファイアのヘルはヘリコプターのヘリから来ているのだが、その凄まじい威力から地獄のヘルと解釈されていた。
爆音と衝撃波がキャロルの乗ったAH-64Dアパッチ・ロングボウに届いた。
だがキャロルは違和感を覚えた。
着弾にかかる時間は四秒の筈だった。だが体感ではまだ二秒ほどしかたっていなかった。目を凝らし黒煙の中を窺うと何か青いものが透けて見えていた。
キャロルは自分の感覚を信じていた。ヘルファイアの射線上を何かが塞ぎ、ミサイルを途中で爆破させたのだ。突如、障害物が現れ、敵戦車の破壊を妨害したのだ。
戦場に吹く風が瞬く間に煙を消し去り、その青い障害物の正体を露わにした。
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