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嬉しそうな声に、こちらも嬉しくなります。他愛もない事で私がなにか苦労をした訳でもないのに、とてもいい事をしたような気持ちになります。
シャッターを半分だけ下ろしておくので、ノックをしてくださいとお願いしました。
深田様は安心した声で礼を述べられ、電話を切ります。
*
昼食を食べていると、ドアに付いたベルが鳴って来客を知らせます。
「いらっしゃいませ」
慌てて口の中の物を嚥下しそちらを見ました。
まず目に飛び込んだのはバラの花束でした、途端に鼻腔を芳しい香りが刺激します。
「仕立屋さん」
花束を抱えた女性が破顔して立っています。
ご近所の常連さんの永瀬さまです。度々和服のリフォームにいらっしゃいます。
「これね、うちの庭で咲いたの。今年はまた見事に咲いてね。ご近所にも配って歩いているのよ」
「そうなんですか」
「仕立屋さんにもお裾分け、もらってくださる?」
「ありがとうございます、喜んで」
新聞紙に包まれたバラの花束をいただきました。色とりどりの大きな花です、こんな立派な花を咲かせるとは、手をかけ真心をこめて育てたのでしょう。
「いい香りです」
花に顔を埋めて、思わず言っていました。
「まあ、バラが似合う男だこと」
意味がよく判らない事を言われました、返答に困っていると、
「じゃ、よかったら飾ってね!」
元気におっしゃっていなくなりました。
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