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「いやあ……これはちょっとやりすぎかな」
さすがに深田様も困り顔です。
「でも」
私は微笑みました。
「女神の怒りを鎮めるには、これくらい要るかもしません」
私が冗談めかして言うと、深田様もやっと笑みを見せてくれました。
「じゃあ、有り難くいただいて行くよ」
「はい」
手近にあった細長い余り切れで花束をまとめました。
元々包んでいたセロファンや包装紙は、折り癖がついてしまっています。
「ああ……そうだ」
花束を薄紙で包んでから、破棄しようとまとめてあった布地の山を漁ります。
幸い裏地用のサテンがありました、淡いピンクのそれで茎のあたりだけふんわりと包みました。更に厚手のネル素材のタータンチェックの布で覆います。最後はそのタータンチェックの布を裂いてリボン結びで飾りました。
「いかがでしょう」
「すごい、藤宮さん、器用だな」
「ありがとうございます」
礼を述べて、深田様にそれをお渡ししました。
右腕に花束を抱え、左手にスーツが入った箱を下げ、深田様がお帰りになります。
締まりかけのシャッターを押し上げ、両手が塞がった深田様をお通ししました。
「お気をつけて」
夜道です、深田様の背中に声を掛けました。深田様は花束を持った手を上げて返事をしてくださいました。
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