◆儚く散る願い◆

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 つい先月、両親が蒸発した。  ある日突然、帰ってこなくなった。残された手紙には、借金が膨らみどうしようもできなくなった。ただ一言、そう書いてあった。  両親は元々、俺たち子供にあまり関心がなかった。でもまさか、借金まで作っていたとは思ってもみなかった。  俺は大学をやめて、アルバイトを掛け持ちしなんとか食いつないでいる。借金のことは取り立てのようなものが今のところ来ないためよくわからない。督促状みたいなものが来るのだろうか。どれくらいの金額なんだろうか。  全くわからなくて不安な日々が続いている。  末っ子の莉子にはさすがに両親が蒸発したなんて言えず、しばらく仕事で帰ってこないんだと告げた。莉子の答えは「ひろちゃんととあちゃんがいるならいい!」だった。  子育てに消極的だった両親で、その点はよかったと思ってしまった。 「兄ちゃんも飲んだら?」 「うん。もらおうかな」 「りこもー!」 「莉子は美味しくないと思うよ。俺のちょっと飲んでみる?」  俺も甘酒をもらって、生姜は断りふぅふぅと息を吹き掛け冷ますと気を付けながら莉子に飲ませた。莉子は少しなめるように飲むと顔をしかめて、もういらない、と不貞腐れたように言った。
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