◆儚く散る願い◆

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「莉子は帰ってココア作ってあげるね」 「わあい!」  にこにこと楽しそうな莉子を見るとほっとする。両親が蒸発して、借金が残されて絶望的な状況なはずなのに、とても穏やかな気分になれる。  都亜も莉子も俺にとってはとても大切な家族だ。守らないとって思う。不自由な思いはさせたくない。  両親がいたときだって、貧乏だったうちは、本当に我慢の連続だった。お下がりは当たり前だし、家のことは手伝わないといけないし。俺は、二人には回りと同じように遊んだりしてほしかったけど、二人ともとてもいい子で必ず手伝うよって言ってくれる。  だから今も、とても助かっている。 「兄ちゃん、明日からバイト?」 「うん。だから、ごめんな。莉子のこと頼んだ」 「いいよ。でも、俺もバイトできたらいいのに」 「なに言ってんだ。中学生がそんなこと考えなくていいんだって」 「だって、兄ちゃんは大学やめて働いてんのに」  俺が大学をやめたことを、都亜は俺よりも気にしてくれている。俺自身は仕方ないことだって納得してるんだけど。  今の生活も嫌な訳じゃない。都亜がいて莉子がいて、俺には大切なものがまだこんなにもあるんだから。 「都亜はしっかり勉強して、将来兄ちゃんを楽させてくれ!」 「・・・・・・わかってるよ」  納得はいかない様子だけど、優しい都亜のその気持ちだけしっかりと受けとるから。
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