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「沖野さーん! いるんでしょー! 出てきてくださいよぉ!」
ガンガン! と扉を叩きつける音が響く。早朝。バイト前に朝ごはんを用意して、二人に食べさせていた頃だった。けたたましいドアを叩く音と野太い声。それはわざと大声を張り上げているようだった。
「兄ちゃん・・・・・・」
「大丈夫。二人は静かに隠れてて。絶対に出てきたらダメだよ」
俺も、正直足がすくみそうになるほど怖い。でも、俺はもうすぐ誕生日が来たら二十歳になる。成人するんだ。俺が二人を守らないと。
「はい」
「んだ、やっぱりいるんじゃねぇか」
扉を開いてその向こうにいたのは、難いのいいいかにもな人だった。眉を寄せいかつい顔つきのその人はスーツ姿で俺を見下ろしている。怖い。
なんてところから金を借りてるんだ。
「んだ、ガキか。親はどうした」
「・・・・・・いません」
「ああ? いつ戻ってくんだ」
威圧的な態度。低い声で捲し立てられ怖くて仕方ない。でも、俺の後ろには大事な兄弟がいる。俺がしっかりしないと。
「も、戻ってきません。出ていって、俺たちもどこにいるか、わかりません」
「あぁ? んだそれ。くずやろうか」
苛立ちを孕んだドスの効いた声に、ビクッと震える。背中の方で莉子の泣き声が聞こえてきた。
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