0人が本棚に入れています
本棚に追加
しばし、沈黙があたりを包んだ。地獄を放浪したすべての時間よりも長い時が経ったように碧には思われた。
くすくすと、笑う声がした。
「……ふふ、あはは……やっぱり、あおちゃんは優しいなぁ。だから私、あおちゃんが大好きになったんだけど。でも、私の分まで地獄を背負い込むなんて、ちょっとやりすぎだよ」
はっとして、碧は顔を上げる。
「ね、あおちゃん」
先ほどまで女神が座っていた場所には、小春がいた。
「小春……?」
「そう、私だよ、あおちゃん」
長い黒髪に、かわいらしくも溌剌とした表情。にっこりと、あの春の穏やかな日差しを思わせる笑顔を浮かべている。
小春は、最後のチョコをつまみ、そして桜色の唇を開いて、それを口へと運んだ。
「いただきまーす……ふふ、美味しい! ありがとう、あおちゃん。願い事は、叶えたからね」
碧は、いつの間にか立ち上がっていた。小春も椅子から立っている。よろよろとおぼつかない足取りで彼は小春に近づくと、倒れこむようにして抱きついた。
最初のコメントを投稿しよう!