骨、飢餓、チョコ

2/15
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 地獄に堕ちた。  (あおい)は地獄に堕ちてしまった。  しばしの休憩がもう終わる。ぼんやりと周囲を見回した後、碧はカバンを持って立ち上がり、とぼとぼと行くあてもなく歩き始めた。  碧は、彼自身が記憶している限りでは、高校生だった。17歳だったはずだ。身に着けている詰め襟の黒の学生服と黒革のローファーと白いシャツを見ても、その記憶はおそらく確かなものだろう。  彼は、やつれ、疲労し、青褪めていた。女の子のように可憐で、母親の自慢だったあの美しい容貌は、すっかり「地獄的」なものへと変貌していた。  行く手に目をやる。大地は見渡す限り平坦で、真っ白だった。その白は、無数の骸骨と、漂白したような砂礫と、干乾びた蟲の死骸によって構成されている。  ピンク色の無数の亀裂が地面を走っている。亀裂からは腐臭を放つ黄緑色の瘴気が噴き出ている。その瘴気に、真っ黒になるほど羽虫が集っている。  バキッという、枯れ木を踏み折ったような音がした。碧は思わず足元を見た。骨を踏んでいる。形と大きさと強度から見て、女性か、子供の大腿骨。  よくあることだ。  気を取り直して、彼は更に多くの骨を踏みしめ、蟲の死骸を踏み潰し、亀裂と瘴気を避けながら、漫然と前に進み続けた。  空を見上げる。大気は紫色で、赤と橙色の無数の妖星が煌めいている。時折紅い稲妻が走り、ドロドロという不気味な遠雷が響いてくる。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!