骨、飢餓、チョコ

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 そう、小春だ。  碧の中学校の思い出には、常に小春がいた。  彼女とは、入学式の日に会った。校門で母と一緒に写真を撮っていた時、声をかけてきたのが小春とその両親だった。  成り行きで、なぜか初対面の小春と二人一緒に写真に収まったのを彼はよく覚えている。  小春は、とにかく明るい子だった。クラスの誰とも仲良くおしゃべりをし、分け隔てなく友情を振りまいた。打ち解けず、物静かで、ともすると陰気な印象すら与えがちな碧とは、まさに正反対だった。  数ヶ月経って、碧と小春は一緒に登下校をするようになっていた。道すがら、彼女はよく話した。飼っている犬のこと、亡くなったおじいさんのこと、昨日食べたお菓子のこと、好きなアイドルのこと……  彼女は、よく忘れ物をした。そのたびに、隣の席だった碧は、教科書や資料集を見せてあげた。  書道の時、小春が道具一式を家に忘れてきたことがあった。碧は自分のものをすべて彼女に貸した。最初、彼女は遠慮していたが、碧がじっと見つめると、諦めたように道具を受け取った。 「ありがとう、あおちゃん。あおちゃんは、すごいね。大切なものを躊躇しないで人にあげることができて……」  書道の教師は年配の女性で、多少ヒステリックな性格だった。道具を忘れたと申告する碧を、教師は教室はおろか校内中に響きわたるほどの甲高い声で怒鳴り上げた。これが分かっていたから、碧は小春に道具を貸したのだ。
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