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『 Ilove you forever. 』by.moco
真っ白な壁に囲まれた部屋には、エタノールの香りが漂っている。元気なものまで病にかかってしまいそうな空間が、どうしても好きになれなかった。
でも、毎日ここに来たい。
ここで食事をして、ここで仕事をして、ここで本を読んで、ここで音楽を聴く。眠る君を見つめ、わずかな目覚めの時間は共に過ごす。
時に本を読み聞かせ、君のために小さく歌う。君の見た夢の話を聞いて笑ったり、細く開けた窓から入ってくる季節の香りに思い出を語りあう。
「もっと二人で思い出を増やしていこう。もっと二人でいろんな空の下に行こう。この部屋を出て世界中の空を見にいこう」
僕の言葉に、君は静かに首を振った。
『空はひとつよ』
そしてうっすらと笑う。青白い顔色には、控えめなコスモスのような色の紅も華やかに見える。
『空に行ったらどこにいるあなたも見える。どんなあなたも見える』
君の言葉に頑張って笑ってみせた。
「じゃあ、僕はやんちゃできないね。だからここにいなさい。ここで僕が来るのを待っていなさい」
君はくすくすと笑う。
『やんちゃなことをしたいのかしら?あなたはどんなやんちゃをするのかしら?でも人に迷惑をかけてはだめよ』
そんな言葉を漏らしたコスモス色の唇に、そっとくちづけた。
「やんちゃなことをするより、君に本を読む方がいいな」
君は伏せ目がちに笑った。そして顔をあげて僕をしっかりと見つめる。瞳がわずかに輝きの幕を張って見えたのは気のせいだろうか。
『空はひとつよ。あなたがどこにいたって私はあなたを見ているから。だから時々、本を読んで聞かせてね』
サイドテーブルにある文庫本を手に、角度をつけて君が座るベッドの隣りに座った。左手を細い肩に廻してから本を開き、糸の栞をはらう。
僕の肩にそっと凭れた君の髪から、僕の好きなジャスミンの香りがしている。
(永遠に愛しています)
by.moco.i
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