プロローグ

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 風に流れる空の雲、湿原に彷徨う蒲の綿。  もふもふしたもの、ふわふわしたものには不思議な魔力がある。人をそこはかとなく惹きつける魔力が。  どうして、人はもふもふに惹かれるのか。古代、その謎を研究した人々がいた。彼らはもふもふが人間に眠る生命力と密接に関わっていることを発見し、その応用として雲風百蒲(もふもふ)術なる妖術を開発した。陰陽道や民間呪術、異国の魔術を取り入れたその術は、一時期は最強と謳われた。  今も、雲風百蒲術はひっそりと生き残っている。現代の雲風百蒲術は、物の性質を直接変える変質系、物を自分の術を発動させるための道具にする呪物系、他者の精神を操作する洗脳系、特定の物を無から出現させる現出系と大まかな種類があり、どんな術を使うかは人によって多種多様。どの術も、もふもふと関係があることは共通しているが。  では、なぜかつて最強とされた雲風百蒲術は、これほど無名な存在に成り下がってしまったのか。  それは、雲風百蒲術から分離した派閥、棘棘(とげとげ)術との激しい対立による。棘の特徴、鋭さや刺す行為、とんがりを性質にもつ棘棘術は、雲風百蒲術とも似ており、力は同等。なぜか対立した両者は血生臭い衝突を繰り返し、共倒れとなっていたのだ。  だが。棘棘術は今はもう生き残っていない。激しい戦いの末、ついに雲風百蒲術は棘棘術を殲滅したのだ。強烈な力をもった雲風百蒲術だ、邪魔者も消え、今に現代文明を掌中に収めるかもしれない……。  そう、思われていた。  ところが。  実は、棘棘術は生き延びていた。細々と、しかし、しぶとく。  百年ほどの空白の時代を経て、棘棘術は雲風百蒲術の前に再び立ち塞がることとなる……。
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