旅路

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「しっかし、すんごい森だな……」  手つかずの自然が残っているのも頷ける急斜面。これでは開墾もしようがないだろう。緩利は必死に灌木の幹を掴みながら、ロッククライミングの要領で登っていた。ふと下を覗くと、谷底に流れる川が蛇みたいに細く見えた。ちょっと油断したらあそこまで滑り落ちてしまいそうだ。そうなったら、死にはしなくても全身複雑骨折はまず間違いない。  何も持っていない状況ならまずそんなヘマはやらかさないだろうが、背中には眠を背負っていた。五歳児の眠は夕方になるとお昼寝モードになってしまうのだ。っていうか釼先の爺さん、なんでこんな子供選んだんだ……。 「ちょっと休憩しましょうよぉ~」  白草がか細い声で泣き言を言う。白草(しらくさ)(ゆたか)は身長180センチほどの痩せ型の男。年齢はよくわからない。老人にも、少年にも見える。顔はカマキリにそっくりの逆三角。いつも同じ柄のチェックシャツを着ている。どこか弱々しい赤色の柄だ。 「いや、ペース上げないと時間通りには着かねえぞ。あ、でもいいや、ちょっと休んどけ」
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