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緩利敏光は、落ち込んでいた。
彼がこんなにしおらしくうなだれることは、そうそうあることではない。緩利は傲慢でかつ自己中心的な性格。それも、幼稚な傲慢さの中に老いぼれのような頑固さ、聞き分けのなさが混ざっていて、非常に厄介な質だ。滅多なことでは沈まない。
だが。
そんな彼も、ここ数日ばかりは塞ぎ込んでいた。
友人が、失踪したのだ。彼の唯一の友人が。傲慢な緩利にも優しく接してくれる、たった一人の友達が。
塾から帰った後、連絡が取れなくなった。捜索願も出されたが、警察も何の手がかりも掴めていない。本当に蒸発したかのように、消えてしまったのだ。
この事件は、齢十六の柔らかな心に大きな傷をつけた。心臓に、黒々とした穴がぽっかりと空いたみたいだった。
静かな怒りが夜の潮騒のように、絶え間なく耳に疼いた。毎晩、夢を見た。鉛色の雲になって、空をゆっくり泳いでいる夢。風に弄ばれ、いろんな国の上を彷徨い続ける。自分はどこから来て、どこへ行くんだろう。眼下の眠たげな田園風景を眺めながら、そんなことを考えた。だが、それは風のみぞ知る。そして風はヒュウヒュウと嘲笑うのみ、問うたところで何も答えてくれない。
「次は、貴方が攫われる!」
なんてやけに予言者めいた電話もかかってきて、それがさらに緩利を痛めつけた。多分人の弱みにつけこんだ宗教かなにかなんだろうが、気持ちが悪い。
ずっと塞ぎ込んでいても仕方ない。気分転換に電車にでも乗ろうか。行き先はどこでもいい。ただ、田舎のゆったりした空気を吸いたい。
そう思った彼は、友人が失踪して一ヶ月ほどたったある日、出かけることにした。
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