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緩利は、胸に刺さった棘を握りしめた。ほろりと崩れ、綿毛となって宙に舞う。
冷静に状況を把握する。
どうやら、自分が今いるのは……巨大なサボテン、鬼面角! 最も、観賞用のものよりずっと大きく、棘も太いが。伸びてきたサボテンの棘に串刺しになっていたらしい。
くしゃみした人数から考えて、この術を発動させた者はこの近くにはいない……すなわち呪物系。よって術が仕込まれている物を破壊しなくてはならない。
ま、とりあえずは……。
サボテンを拳で思いっきり殴る。サボテンは忽ち白化。綿毛と化してバラバラになる。緩利はもふもふしたサボテンの残骸に落下した。
原因を絶った訳ではないから、第二弾は来る。
どこだ。
どこから生える……。
女の遺体から調べた方がよさそうだ。
そう思ったが……。
死体が消えた?
サボテンに潰されたのか、ぺちゃんこの肉塊しか残っていない。
が。
その中で、唯一立体的に形が残っているものがあった。
心臓だ。理科の教科書で載っている通りの形をしている。思ったより小さいな、とはふと感じたが。
間違いない。心臓に、術が仕組まれてたんだ。死んだときに発動するように。全く狂っている。死ぬこと前提かよ。
心臓の朱に、緑の親指のようなものが、ニョキっと顔を出す。補色で毒々しい。
急いで、全神経をそこに集中する。思い浮かべる、あの心臓がもふもふのぬいぐるみみたいになるのを……。
思ったより、硬さを感じる。対もふもふ用になにか防御術を使っているか。だが、負けられない。こんなところで挫けてられるか……!
ぽん、と音。緩利に安堵の表情が浮かぶ。心臓が、サボテンが、やわらかな綿毛となり、風にさらわれて消えていった。
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