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眠たげな田園風景、風に弄ばれる鉛色の雲。幾度となく見た、夢の中の場景。
刹那、言葉で表せない、何か全く新しい「感覚」が、ぬるりと湧くのを感じる。五感どれとも異なる、完全に異質な、「感覚」が。
その「感覚」は、緩利の体内で大きな魚のように動く。生々しい胎動が、腹の底から伝わってくる。
彼はそのとき、その「感覚」の使い方を、ずっと昔から知っていたような気がした。
男の目をまっすぐ捉える。
「感覚」が幽体離脱するように体を離れ、宙を裂く弾丸となって男を襲う。
瞬間、男が消え、空振りした「感覚」は椅子のシートに叩きつけられる。
シートがぶるりと波打つ。震える子鼠のように椅子が振動し、やがて蹲るように動きを止めたかと思うと、突然爆発。黒い煙がたなびく。煙がひき現れたのは、びっしり生えた純白の毛。男が座っていたところが、もふもふになっていた。
なんだ……これ……。
緩利は目を見張る。俺は今、何をした……?
「今目覚めてしまいましたか……物体をもふもふにしてしまう術……雲風百蒲術の変質系か。面倒だな。まあいい、貴方がどれだけ抵抗しようが、強制連行します」
見ると男が天井に逆さまに立っている。
が、この異様すぎる光景に、緩利は特に驚きを示さない。
「俺はついに……超能力を手に入れたのか……?」
ただただ、馬鹿みたいに喜んでいる。こんなに明るい気持ちになったのは、友人が失踪して以来、初めてのことだった。
「……いや、こんな悪夢みたいな状況のなかで、なんでそう嬉しそうなんですか? 戸惑いとか、ないんですか?」
男が、怪訝な顔をする。
「魔法に憧れない子供なんて、どこにいる? これほど優秀な俺に世間は、世界は、こんなにも冷たい。それを全て一気に解決してくれる圧倒的な力が、どれほど欲しかったか。だが、神様は、ようやく俺に憐憫の涙を垂らしてくれた。この恵みをもって、お前を……あれ?」
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