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そう、緩利は椅子を柔らかく変質させ、電車を突き抜けていた。
車外に飛び降りた瞬間、猛烈な風が全身を貫く。目は見えないから余計に怖い。
このままだと、時速百キロで地面に激突してぺしゃんこになってしまう。
だが、ここで。
体になにか温かいものが、ポッと迸る。来た、この感触!
その温かい感覚が液体のように全身を満たし、やがて、体の外へと激しく飛び立つ。
その瞬間、緩利の体は線路に衝突した。フェルトのぬいぐるみみたいにふわふわした砂利に。
あの男の能力の射程距離外に出たのか、睫毛が縮み、目が再び見えるようになる。
爆風が派手に緩利の髪を掻き上げる。電車が、もの凄い轟音とともに線路を滑り去って行く。
……逃げ切った。
感情の大波が堰を切ったように押し寄せ、心のなかを水浸しにする。
ざまあみやがれ。
俺は、逃げ切った。逃げ切ってやったんだ! ……本当はあいつをぶっ倒してやりたかったのだが。仕方ない。センリャクテキテッタイってやつだ。
とりあえず、友人、惟宗を攫った敵を、出し抜くことができた。それだけで、胸がスカッとする。
そのとき、ズボンのポケットのなかで、何かが震えた。
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