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思わずビクッとしたが、そうだ、スマホだ。電話がかかってきたらしい。せめて線路からまず出ればいいものを、緊張と興奮では判断力が衰弱していた彼は、特に何も考えずに、その場で電話にでた。
「雲風百蒲術の波動を感じる……。おめでとう。遂に目覚めたようだな」
その声には、聞き覚えがあった。
……そうだ、あれだ。
「次はあんたが襲われる!」なんて言ってた宗教か。やけにオーラのある話し方だったので、印象に残っていた。
「モフモフジュツ……? なんの宗教ですか、それ」
「宗教じゃない、魔術だ。君、さっき使っただろ」
魔術、と聞いて、反射的にそんな馬鹿な、と言いそうになったが、確かに、さっき、魔術としかいいようがないものを体感したばかりだった。
「……それで、俺になんの用ですか」
「君は希有な存在だ。生まれながらにして、雲風百蒲術を心の深層で身につけていた、というな。それが今日ついに発現した。なあ、師について雲風百蒲術を本格的に学んでみないか」
「いやです」
「……なぜだ」
「俺、師弟関係とかいうの、苦手なんっすよね。上に人が立ってるっていうのがなんかムカつくし。それに俺、そんな凄い天賦の才能持ってんなら、学ぶ必要なんてないでしょ」
ふふん、と電話の主は鼻で笑う。
「君、死ぬぞ」
「……え?」
「そんなこと言ってるようでは殺される。君の友人、惟宗も実は雲風百蒲術を使う者だった。最近、雲風百蒲術の多くの若者が何者かに誘拐されている。今日君が襲撃されたのも、この一連の事件に繋がってるんだろう。今逃げられたとは言っても、やつらは必ずまた追ってくる。術を鍛えなければ、いつかやられる」
「……あの棘棘術って言ってたやつですか。まあ奴自体はたいしたことなかったけど……」
「……棘棘術?」
電話の声が裏返る。
「どうかしたんですか?」
「いや……私は予想はしていたんだが……」
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