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「ぐあああああ!!! 」
そのとき、緩利が奇声を上げた。
「ど、どうした? 」
「む、虫! いもむしけむしぃ! 」
半狂乱になって上着を掻きむしる緩利。彼は虫が大の苦手であった。
服に付いていた緑のトゲトゲを手で勢いよくはたき落とす。
「……なんだ、ひっつき虫か」
「おい、驚かすなよ。また襲われたのかと思った……」
電話口のその呆れた声はしかし、緩利には届かなかった。
掻き消されたのだ、悲鳴に。ひっつき虫のあげた悲鳴に。
確かに聞こえた。ひっつき虫が叫ぶのを。「いってええぇぇぇ!!! 」と叫ぶ金切り声を。
「ひっつき虫が、喋った? 」
「は? 何言ってんだ? 」
「今、なにか聞こえませんでした? 」
「ん……確かになにかキーって雑音聞こえた気がしたけど……。私も年で高音は聞きづらくてな」
緩利は目を疑った。ひっつき虫が大きくなっていく。その緑の粒はどんどん膨張し、長細く伸びる。沢山あった棘は太い四本を除いて先端に移動し、細く、長く伸びて頭髪のように……。残りの四本はさらに太く、長く。真ん中で折れ目ができ、先っぽにも折れ目が、その先はひび割れ、指のよう、四肢のよう。
ある部分は縮み、ある部分は膨らむ。目でき鼻でき口できる。ひっつき虫だったそれは腰をさすりながら、どっこらしょ、と立ち上がった。
「くっそ、変身が解けちまった」
元ひっつき虫の男が、キンキン声で呟く。
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