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五郎さんはサンタクロースに向かって野球ボールを投げ、同時に入口に向かって走りはじめた。僕も同じタイミングで走る。
スタッフルームとスポーツコーナーまでは順調だった。ベビーグッズからは瓦礫の量が多くなる。油断すれば転んでしまいそうだ。ここまで後ろは振り返っていない。追いかけてきているだろうか、それとも前に回って待ち伏せしているだろうか。
――コれかッてェ
――ほしイ
何度も聞いたことがある、幼い声が廃墟内に響く。こんなところに子供はいない。初めて聞いたのであれば立ち止まってしまうかもしれないが、体験済みの僕には効かない。五郎さんは一瞬戸惑ったようだが、僕から話を聞いていたから無視できたようだ。
こうして足止めをしている間に殺害するのだろうか。空恐ろしくなって、つい、後ろを振り向く。
赤い色が見えた。追ってきている。
「あっ!」
まずい。誘惑に負けて後ろを見たのがいけなかった。ぬいぐるみゾーンに差しかかった時に、手の平サイズほどの瓦礫に躓いてしまった。
上半身が地面に叩きつけられ、口にぬるりとした感触がある。口を切ったか、鼻血が出たか、それとも両方だろうか。分からないが、出血していることは確かだ。貧血の症状は出ていないから、量は少ないはず。
四つん這いになって体を起こそうとした時だ。ガラガラガラと、すぐ近くから音が聞こえる。
追いつかれた。
ヒュンッと何かが頭を掠める。
何だと思ったと同時に、前方から「ぐわぁ」という声と倒れ伏す音が聞こえてきた。声の持ち主は五郎さんだ。サンタクロースは僕を無視して五郎さんの方へ向かっていく。完全に置いてけぼりになった僕は動揺していた。
なぜ、五郎さんを狙うんだろう。明らかに殺しやすかったのは僕だ。不可解な行動の謎を追おうとし、僕は逃げるのを忘れてサンタクロースの行動を見守っていた。
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