サンタクロース

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「雰囲気を楽しむのも良いですが、早く準備して中に入りましょう。いつまでも彷徨いてると誰かに見られるかもしれません」 「はいはい、植田はせっかちだな。どれ、中はどうなっているかな~」 「ああ、待ってください。まずはこの香水をつけてからです」 「めんどくせぇ」 「面倒でも念には念を入れるのが大事ですよ!」 「へいへい」  五郎さんの体に香水をかける。ついでに塩も持たせておく。 「はい、これで大丈夫ですよ。さぁ行きましょう」 「おう」  気勢をそがれた五郎さんは冷静さを取り戻したのか、キョロキョロと周囲を見渡して警戒し始めた。廃墟は見るだけだった五郎さんが、今回初めて中に入るのだ。テンションが上がる気持ちは分かる。でも、幽霊の住処になっているかもしれない所だ、興奮していると重要なことに気付けないかもしれない。お互い慎重になるべきだ。  リュックに手を伸ばして懐中電灯を取る。電源を入れて廃墟の入口を照らすと、壁が崩れて中の鉄骨が見えている部分がある。あれに触れたら痛そうだ。余計な怪我はしたくないから気をつけよう。  懐中電灯を持つ僕を先頭に廃墟の中に入る。冷気で背筋がブルリと震える。この寒さは人がいないからなのか、それとも……いや、考えないことにしよう。霊のことを考えていると霊が近寄ってくる。どこかでそんな言葉を聞いたことがある。廃墟の周りは木で覆われているから、日差しが入ってこない。だから寒いのだと思うことにした。  薄暗い廃墟の中は足下に注意しなければ大変なことになる。足を引っ掛けて転ぶと、地面に落ちている鋭利な物が肌に刺さって出血してしまう。入院生活になって好美に迷惑をかけるのは避けたい。  懐中電灯を前方に向けると、複数のレジカウンターが見えた。このまま真っ直ぐ行ったら廃墟の出口だ。しかし、瓦礫が積み上がっているせいで行けそうにない。無理やり通れば行ける気がするが、そんな無茶はしたくない。真っ直ぐ突き進むのは諦めて、遠回りになるが廃墟全体を回れる左の方に行くことにした。 「ん? なんだありゃ……ここらは日差しがあんま入ってないな。よく見えねぇ」 「光、向けますね」
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