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左手の方へ少し歩くと、何かの山が見えてきた。暗くてよく見えない。僕は懐中電灯を自分の足下からその山の方に向け、正体を見てやろうとした。そこに何があるか知るのも大切だ。
「クマの頭?」
山の正体はクマのぬいぐるみだったのだが、いずれも頭や腕がもげて中の綿が露出している。これが人間だったら、さぞグロテスクな光景だったろう。
「こりゃーひでぇな。物は大切にせんといかんというのに……」
「商品の管理も雑だったんですかね」
雑という言葉だけで片付けられないほどの有様だが、潰れた今となっては責めるべき人間も分からない。ぬいぐるみの黒い無機質な目が恨んでいるように見えるのは、きっと場所が場所だからだろう。
「あっ、ここに黄色いブロックみたいなのが……」
懐中電灯の光を再び足元に向けると、今度は黄色のブロックが視界に入った。なんだろうと思ってしゃがむと、レゴブロックがぬいぐるみの周りに散乱していた。
「レゴブロックですね」
「ほー人の形をしてるのが多いなぁ」
ここで働いていた人が組み立てたのか、倒産後に廃墟に入った人達が悪ふざけで作ったのか、いずれにしても人間の形にしたのは悪趣味だと思う。
頭がないクマのぬいぐるみ、人の形をしたレゴブロック、まだ入口付近だというのに不気味なものしかない。ほとんどの人はここで引き返してしまうだろう。しかし、僕達はまだ帰るわけにはいかない。まだ幽霊に遭遇していていないのだ。ここで目撃できたら良かったのだが、不可解な現象は起こっていない。更に奥に進まなければ。
「五郎さん、奥に行きましょう」
「そうだな。向こうはあまり崩れていないな。でもかなり暗いから慎重に行こうか」
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