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体育館裏の薄暗い雑庫。
わずかに差し込む西日の中に漂う埃がやたらと目につく。
「お前何様のつもり?」
「まったくだよ。紀藤君に物をぶつけるなんてケガでもしたら責任とれるの?」
「クソ貧乏のくせに学校来てること自体図々しいんだよ!」
四津谷薫を囲んでいるのは、運送業社長でPTA会長でもある父親を持つ紀藤雅貴の取り巻きだ。
雅貴本人は入り口の傍で両手をポケットに入れ、他人事のように傍観している。
薫は視線を逸らしビクビクと身を縮こませ、何も言えずただ自身を抱きしめた。
物をぶつけたといっても落とした消しゴムが雅貴の足に当たっただけなのだ。
その瞬間、薫は雅貴に謝った。
雅貴は特に何事もなかったように通り過ぎたのだが、取り巻きたちはここぞとばかりに絡みだしこんな事態になっていた。
「自分の立場分かってんのかよ!」
取り巻きの一人が乱暴に薫の胸倉を掴み、地面へと叩きつける。
シャツのボタンがいくつか取れ、薫の胸元から首にかけた紐の先にある小さな小さな緑色の巾着袋が飛び出した。
「何ぶら下げてんの? お守り?」
「ちょ、汚いんですけど」
「貧乏人は神頼みするしかないもんね~」
取り巻きは一斉に笑い出し、一人が薫を蹴飛ばそうとゴールを決めるサッカー選手のごとく足を振り上げる。
すると彼は何かに弾かれるように身体をくの字にして後ろへとフッ飛んだ。
「ぅわ!」
「何だ!?」
薫の巾着袋はフワフワと控えめに宙に浮き、淡い光を放っていた。
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