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「さっきから一人で笑ってるけど……?」
「おばあちゃんが遊んでくれてるの」
「え?」
「あ、この部屋ね、幽霊が出る訳あり物件で、こんな広くてトイレとお風呂も別なのに前のアパートと同じ家賃なんだ。敷金礼金もサービスしてくれてさ」
「幽霊!?」
雅貴はその場から飛び退く。
「そっちには猫がいるよ。でも三十匹くらいいるからどこに行っても猫まみれなんだけど」
うわぁ! とバタバタ、キョロキョロしだす雅貴。
勿論物理的には何もいない。
「猫もおばあちゃんも妹の世話してくれるから夕刊のバイトに戻るつもり。本当にいいアパート紹介してくれて江君には感謝だよ」
江の名前にピクリと反応し、雅貴は姿勢を正して口を尖らせる。
「ゆ、幽霊が妹の世話してくれるとか、俺をからかうのもい、いい加減にしろよな」
「幽霊が怖いの?」
「こ、怖いとかじゃないし!」
薫はクスっと小さく笑うと巾着袋を胸元から取り出し、ニヤリとして雅貴の腕に淡く光るそれを触れさせる。
「ぅわぁぁぁ!!」
猫がこれでもかとひしめき合う中、全てを見てきた家政婦によく似たおばあちゃんがお手玉をしている光景が雅貴の視界に広がった。
おしまい
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