第3章

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* 僕がまだ小学1年生の頃、両親は僕を児童精神科医に会わせた。 当時の担任の教師からすると、僕はいささか無口で協調性に欠けるところがあって親に医師にかかることを勧めたらしい。 その頃は怜央とよく遊んだと記憶がある。 ごっこ遊びやブランコやジャングルジム、砂場など近くの公園や学校の校庭で遊びの種類は豊富だった。 そのころの怜央は、特に一輪車が得意だった。 当時の彼女は女の子にしては髪も短く、男の子のようだった。 怜央以外の子とは、ほとんど遊ばなかった。 母親に連れられて電車に乗って、隣町の大きな病院まで行った。 待合室は白を基調とした地味な部屋で、かかりつけの小児科のように、ぬいぐるみやヒーロー番組のポスターみたいなものはなかった。 担当した医師は、終始笑顔で僕に話しかけていた記憶がある。 医師は母親にこう伝えたらしい。知能に問題はなく、意思疎通もできる。自傷行為や他害行為があるわけではないので、薬で抑える必要もない。今は気になることもあるだろうけれども、時間が解決してくれる種類の問題もあると。 その医師とはその後、何回か会ったが最後まで気楽な会話(僕が医師の質問に答えるだけだったが)をしただけだった。 特に嫌な感情はなかった気がする。注射や傷口を消毒するような痛みを伴うものではなかったから、拍子抜けしただけなのかもしれない。 *  電車を降りると、僕は実家の方面に行くバスに乗った。出勤や退勤の時間帯ではないので、余裕を持って席に座ることができた。 緩慢に走るバスの車窓から街を眺めた。中心街の再開発が少し進んでいる以外は、街をでる前とたいして違いはない。だいたいこの街にいたころだって、新しい店ができただの、あの店が潰れただのと子細に観察していたわけではない。気がつくといつの間にか更地になっていたり、建物ができていたりする。 特に感慨はない。ただ確実に、僕と怜央が過ごした街の面影が少しずつ色褪せていくだけだった。
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