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僕は14時頃、実家をでた。住宅街を数10メートル歩き、一軒の家の前で立ち止まる。白い壁に黒い屋根の2階建ての家だ。野村という表札を確認し、インターホンを押す。
少女が玄関のドアを開けて顔をのぞかせる。
「入って」さっちゃんはポツリとそう言った。
家のなかに入り、彼女の後ろをついていく。玄関から廊下を抜け、僕はリビングに通された。
家には彼女ひとりしかいないようだ。
「両親は仕事に行ってるの」
家の前の車寄せが空っぽだったことがふと思い出された。
僕とさっちゃんは座布団に座り、小さな丸いテーブルをはさんで向かいあっていた。
彼女の背後にはベージュ色のソファがあったが、それには座らなかった。目線を合わせて会話するには不都合であると判断したのだろう。
テーブルの上では、緑茶を淹れたカップが湯気を立てている。
彼女は、僕がこの街を離れた約半年のうちに成長していた。身長や胸が著しく成長していたというわけじゃない。けれど確実に大人に少しずつ近づいていた。
身長は同年代の子たちと比較しても高いほうではない。しかし、まっすぐに伸ばされた黒い髪とコントラストになるような白く繊細な顔立ち、そして美しい目が彼女に一種独特のオーラを纏わせていた。
さっちゃんの一対の目には一種独特の煌めきが感じられた。なにか強い意志の力を秘めているような。それはこれからの人生を自分の力で生き抜いていく、そういう意思表示にも捉えられた。
僕の目を見て人はどんな感想を持つのだろうか。僕の顔を見てはたして生気が溢れていると感じる人もいるのだろうか。そんな疑問がふと頭をもたげた。
「この街を離れてみてあなたは何か変わった?」とさっちゃんは言った。
「どうだろう。変わったといえば少しやせたことぐらいかな。大学では部活動でぺこぺこに腹を減らすようなこともないしね」
「違うわ。外見のようなこと以外でよ」
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