第2章

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第2章

これは僕がまだ若い頃の話だ。これを書いている僕はもう30代だ。年上の人はまだ若者扱いするけれど、やはり昔とは違ってしまったのが自分でもわかるんだ。 具体的な話に入ろう。 進学した大学は東京にあって、僕が生まれてから高校まで過ごしていた街とは離れていた。無論、実家から通学することはできなかった。 高校の2年生のとき、僕にこの街から離れたいという気持ちが生まれた。その気持ちは変わらず、季節が過ぎるごとに確固たるものとなっていった。その理由について深く考えることを避けていたが、怜央(れお)が、僕の幼馴染が消えてしまったこと以外に考えられなかった。ほかに理由らしい理由もなかった。 僕と16年に渡り時間を共有していた彼女は、ある日何の前触れもなく、そのわけを誰にも言わず、この世界から損なわれてしまった。 そして僕は魂の半分をなくしたような気分のまま、高校を卒業した。 両親は心を閉ざした僕の様子を見ていくぶん心配したようだったが、大学近辺のアパートで一人暮らしをすることを最終的には承諾してくれた。そのときの僕には、未知の体験に対する期待と不安があった。そして何より全てを一から始められることに安堵した。特に父親といっしょにこれから住む街の不動産屋に行って、ああでもないこうでもないと物件の間取り図とにらめっこしたときは、特にそう思った。 入学した当初は、いろいろとイベントはあったものの、それも終わり学校生活に慣れていくと、僕はいささか退屈していた。またこれからの大学生活に何か期待するようなこともなかった。まるで大学という工場が、4年間かけて学生に知識を詰めこんでいくライン作業のようなものだと僕は思った。 平凡な地方都市である故郷の街と、東京では比較にならないほどの娯楽がある。それが僕には、日々大量生産され大量消費される工業製品が、果てしなく陳列されているように見えた。
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