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ピアノの音が止めば、今度は猫の鳴き声が聞こえる。
一階に住む老夫婦が猫に餌をやっているようで、毎日決まった時間に同じハチワレ猫がやって来ては鳴くのだ。
そうすると、すぐにべランダの立て付けの悪い窓が開く音がして、猫はさらに大きな声で鳴いて餌をねだる。
ベランダから下を覗けば、想像通りばあさんが庭で餌を与えながら猫に話しかけている。
幸せそうな顔をしやがって。
と吐露しても、その表情に嫌な思いはしない。
一階のばあさんはいい人だから。
俺がまだ我慢して仕事に行っていた頃、朝早くに階段を下りて顔を合わせると、いってらっしゃいといつも笑顔で言ってくれた。
最初は照れ臭かったが、俺は嬉しかった。
ばあさんが面倒を見ている猫ならば、ちょっとぐらい喧しくても我慢しようと思っている。
猫が餌を食べ終えていなくなると、今度はアパートの前の電柱にカラスが止まり、カーカーと毎度喧しく鳴きだす。
すると、ばあさんはそのカラスに向かって、「カー子ちゃん、こんにちは」と話しかけるのだった。
カラスもその声に反応するかのように、またカーカーと鳴く。
春には浮かれた子供らの笑い声が聞こえるし、夏には蝉が鳴き、秋には焼き芋屋が歌い、冬には灯油販売車が通る。
まったく、本当に喧しいアパートだとつくづく思う。
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