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気が付けば、俺は裸足でじいさんを追いかけていた。
じいさんの背中だけを睨みつけながら、雨に打たれることも気にせず歩いた。
アパートからほど近い長い石段を、じいさんは傘を差してゆっくりと下りていた。
じいさんは、イラつきながら言った。
「まったく、よりにもよってこんな日に。本当に使えんわ。あれは役に立たん。もう捨てねばならん」
その言葉を聞いた時から、俺の記憶は定かではない。
ただ、骨ばった温かな何かに触れたことしか覚えていない。
気が付けば、石段の下でじいさんがうつ伏せで倒れていた。
苦し気に唸り声をあげているようだった。
俺はその姿を、呆然と見ていた。
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